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豚丹毒(とんたんどく)について

春になって暖かくなり、ブタさんと一緒にお出掛けしたくなるような陽気になってきました。

そこで今回はお出掛けする際に是非知っておいていただきたい「豚丹毒」という病気のお話をしたいと思います。

畜産業や動物関係の仕事をしている方以外はあまり聞き慣れない病気かと思いますが、最後まで読んでいただければ、意外と身近にある病気であることがお分かりいただけるかと思います。

豚丹毒とは? 

豚丹毒とは豚丹毒菌(Erysipelothrix-rhuriopathiae=エリジペロスリックス−ルジオパシエ)の感染によっておきる届出伝染病で人獣共通感染症(ズーノーシス)です。

1878年にドイツの研究者によって敗血症のマウスから分離され、1885年に豚丹毒症状の原因菌である事が判明しました。

農林水産省の統計によると家畜豚の発生状況は令和元年で約2000頭、令和2年で約1600頭となっており、現在でも畜産においては大きな経済的損失を与える病気の一つとなっています。

↑豚丹毒菌(未染色)

広島市食肉衛生検査所 広島市食検だより 第60号「グラム染色について」より転載

ブタさんの症状 

菌株の毒性によって症状が異なり、大きく3つのタイプがあります。

①急性敗血症型(40℃以上の高熱、チアノーゼ、急死)
②亜急性蕁麻熱型(発熱、食欲不振、皮膚に菱形の発疹)
③慢性型(関節炎、心内膜炎)

↑菱形の発疹(通称ダイヤモンドスキン)

農研機構 家畜疾病図鑑より転載

このうち「①急性敗血症型」は元気だったブタさんが突然死亡することがあり、致死性が高くなっています。

↑敗血症型によるチアノーゼ(腹部、臀部、上下肢に見られる)

農研機構 家畜疾病図鑑より転載

ブタさんへの感染経路 

主に経口感染で、保菌しているブタや他の動物との接触もしくはその排泄物、汚染された土壌や水から感染します。

また、傷口から感染(創傷感染)することもあります。

 

人の症状(類丹毒) 

豚丹毒菌が人に感染し、発症した場合は「類丹毒」と呼ばれ、主な病型は3つあります。

①限局性皮膚疾患型
②全身性皮膚疾患型
③敗血症型

皮膚の病変が主な症状で、手指の皮膚にそう痒(よう)と灼熱感を伴う紫斑と腫脹が現れる「①限局性皮膚疾患型」が最も多くなっています。

↑類丹毒 皮膚病変症例

MSDマニュアル エリジペロスリックス症より転載

敗血症や心内膜炎を発症する事もあり、死亡例も報告されています。

持病や基礎疾患があると重症化する場合があります。

また、「丹毒」と「類丹毒」は病名・症状は似ていますが原因菌が異なる別のものです(丹毒→レンサ球菌、類丹毒→豚丹毒菌)。

ちなみに丹毒の「丹」とは「赤い牡丹」の事を指し、皮膚の病変の色が赤くなる事からこのように呼ばれるようになりました。

尚、人から人への感染は無いとされています。

人への感染経路 

手指の傷口からの感染(創傷感染)が主で、感染動物やその魚介類との接触により菌感染すると考えられています。

食肉加工業従事者や獣医師、漁師、釣り客の感染例が多く、犬や猫による咬傷からの感染も報告されています。

↑人の感染事例

化血研 SDI第13号「豚丹毒の問題点とワクチンによる対策の要点」より転載

豚丹毒菌を知る 

豚だけじゃない!

「豚」丹毒と呼ばれていますが、感染は上記のブタさんや人だけでなく、多くの哺乳類(イノシシ、ウシ、ヒツジ、犬、猫など)や鳥類(ニワトリ、アヒル、七面鳥など)、海洋哺乳類(イルカ、ペンギンなど)、魚介類からも検出されていて、動物間での水平感染も確認されています。

水族館において餌の「アジ」からペンギンに感染して死亡した報告もあります。

魚介類においては水揚げ後の環境が大きな要因となっていますが、生きた魚から検出されたという報告もあり、海洋まで菌が分布している可能性も考えられています。

また、産業的には豚以外にも七面鳥の被害も多くなっています。

ペンギンも…

ストレスで発症することも…

豚丹毒を発症したブタさん以外にも健康なブタさんの扁桃などにも存在している事があります。

急激な温度変化や餌の急変、移動などのストレスが引き金で体内のバランスが崩れると血中に至り発症する事もあると言われています(日和見感染)。

ストレスは万病のもと…

菌の生存力は強い!

自然環境中では直射日光下で12日間、動物の死体においては5ヶ月間、埋葬された死体で9ヶ月間、冷蔵保存された死体では10か月間生存したという報告があり、保菌動物やその排泄物に付着した状態での生存期間は長くなっています。

熱に弱い

熱に弱く55℃の加熱で10分、58℃では数分で死滅すると言われています。

広く分布している

先に多くの動物や魚介類からも菌が検出されている事を述べましたが、保菌動物によって菌は土壌、河川、海洋と自然界に広く分布していると考えられています。

治療と予防 

治療方法はペニシリンの投与が効果的です(ブタ、人ともに)。

予防方法はワクチン接種が効果的です(ワクチンはブタのみで人用は無い)。

日本国内の養豚業においては1976-1977年に大発生した後、ワクチン接種や抗菌剤治療が功を奏し発生件数が少ない状況でした。

しかし、近年では「過去の病気」のイメージのせいかワクチン接種率が低下し、再び増加傾向にあります。

養豚が盛んな各自治体の家畜保健衛生所ではワクチン接種を呼びかけている事からもワクチン接種の重要性が伺えます。

ワクチンの種類

ワクチンは「生ワクチン」と「不活化ワクチン」の2種類があります。

生ワクチン

→生きた豚丹毒菌の病原性を低下させた「弱毒菌」を使用しています。

1回の接種で免疫獲得できますが、接種前後にペニシリンなどを使用した治療をすると効果が弱くなります。また、発疹や関節炎などの副反応が出やすい面も指摘されています。

不活化ワクチン

→培養した豚丹毒菌を「殺菌」し、「免疫増強材(アジュバント)」を添加しています。

免疫獲得のためには2回の接種が必要ですが、生ワクチンと比較してペニシリンなどの薬剤に影響されにくく、副反応も出にくくなっています。

ちなみにpignicではこの不活化ワクチンを接種しています。

どちらのワクチンも免疫獲得後6ヶ月ほどで防御力が低下してくるので、予防の為には6ヶ月おきに継続接種することをおすすめします。

日常で気を付ける事 

豚丹毒菌は自然界に広く分布しているので、散歩やお出掛けの際の注意点として…

①養豚場を含めた畜舎の周辺に立ち入らない(家畜・マイクロブタお互いの病気予防の為)
②むやみに河川に近付かない(特に山間部は豚熱のリスク回避にも繋がる)
③他の動物の糞との接触を避ける

また、ブタさんは菌への感受性が強いので食事にも注意し、

生肉、生魚は与えない

など、普段から感染リスクを低減させるような行動を意識しましょう。

また、飼い主様に関しましても手洗いなど日常の衛生以外に

①ブタさんの食器や器具の洗浄や熱湯消毒
②豚肉や鶏肉の生食を避ける事
③手に傷がある場合は触れ合いや糞尿の処理をなるべく避けるか、ビニール手袋などを着ける

などして感染リスク低減に努めましょう。

まとめ 

・豚丹毒は豚丹毒菌によって発症する伝染病で、人畜共通感染症(ズーノーシス)であり、人へは主に手の傷口から感染し、皮膚病変を引き起こす「類丹毒」の発症が多くなっています。
・強毒性の菌株に感染した場合はブタ、人ともに敗血症などを引き起こし、死亡する事もあります。
・豚丹毒菌は「ブタ」だけでなく他の哺乳類や鳥類、魚介類も保菌している事があり、土壌や河川、海水と自然界に広く分布していると考えられています。
・動物間の感染や動物から人への感染はありますが、人から人への感染は無いとされています。
・治療は人、ブタさんともにペニシリン系抗生剤が効果的であり、ブタさんは定期的なワクチン接種で感染リスクを低減する事ができます。
・自然界に広く分布しているので、日常の行動から注意する事で人もブタさんも感染リスクを低減する事ができます(手の傷口に注意する、散歩やお出掛け先の選定や他の動物の糞に近寄らないなどのリスク管理、生肉・生魚は禁物、強いストレスを与えないなど)。
参考文献
  • 農林水産省  監視伝染病発生年報
  • 広島市食肉衛生検査所 広島市食検だより 第60号「グラム染色について」
  • 農研機構 家畜疾病図鑑「豚丹毒」
  • MSDマニュアル エリジペロスリックス症より転載
  • 化血研 SDI第13号「豚丹毒の問題点とワクチンによる対策の要点」
  • モダンメディア 53巻9号「豚丹毒とは」
  • 中央家畜衛生保健衛生所「水族館飼育のペンギンでみられた豚丹毒菌感染症」

ワクチンを接種したい方へ

pignicでは、4月17日日曜日9:00〜14:00、ワクチン接種会を予定しております。

豚丹毒、日本脳炎、垂らすタイプの駆虫薬を希望される方は、こちらからお申し込みください。

pignic卒業生以外のpigちゃんも参加可能ですが、1年以内に豚熱のワクチンを接種していることが参加条件となります。くわしくは、こちらをご覧ください。

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