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日本脳炎(流行性脳炎)について

暖かい春がやって来ると冬季に活動を抑えていた動物・虫たちが活動を再開させます。
そこで今回はある「蚊」によって人にもブタさんにも感染を引き起こす恐れのある「日本脳炎」についてお話致します。
まだ少し肌寒いこの時期から準備しておく事で感染を防ぎ、被害を最小限に抑える事が出来るかと思います。

日本脳炎とは?

日本脳炎ウイルスによって発症するウイルス感染症で、蚊の1種である「コガタアカイエカ」が媒介となり感染動物から人やブタ、犬、馬などに伝染し、人が発症すると重篤な急性脳炎を引き起こす「法定伝染病」です。
1871年に日本で臨床事例が報告され、1924年に岡山県で400人以上の死者を出す大流行が発生した事で「日本脳炎(流行性脳炎)」と呼ばれるようになりました。
また、「人畜共通感染症(ズーノーシス)」でもあり、発生報告数は気温が高くなる夏から秋にかけて多くなる傾向があります。

日本脳炎ウイルスとは?

日本脳炎ウイルスは「フラビウイルス科」に属するウイルスで、1935年に人の感染脳から初めて分離されました。

コガタアカイエカとは?

・カ科イエカ属の蚊の1種。
・日本、東南アジア~中近東~アフリカに分布。
・発生源は田んぼや沼地などで、広い水域を好む(逆に小さな「水溜まり」では発生しにくい)。
・体長は4.5㎜ほど。
・活動温度域は26~31℃で、暑すぎても寒すぎても活動は鈍くなる。
・飛翔距離は約2~4kmとされている。
・血を吸う針のような「吻(ふん)」に白い帯がある。
・吸血は産卵を控えた「メス」のみが行う。
・コガタ「アカ」イエカという割には赤くなく、一回り大きい「アカイエカ」と比べると黒っぽい色をしている。

コガタアカイエカ画像①

コガタアカイエカ画像②(吻の部分に白い縞がある)

参考画像:ヤブ蚊(ヒトスジシマカ) 色、模様が違うのがわかる

(各画像:国立感染症研究所ホームページより引用)

日本脳炎の感染経路

日本脳炎ウイルスに感染した動物を吸血したコガタアカイエカ」が媒介(運び屋)となりブタさんを吸血。

↓ (ウイルスの移動)

吸血の際にブタさんの体内に日本脳炎ウイルスが入る。

↓ (感染)

ブタさんの体内で日本脳炎ウイルスが増殖。

↓ (増殖)

ウイルスが増殖したブタさんをコガタアカイエカが吸血。

↓ (感染拡大)

コガタアカイエカによって人、ブタ、馬などへ感染。

(図:さいたま市ホームページより引用)

日本脳炎の発生状況と傾向

下の患者報告数の表で分かるように、1970年以前は年間数百~数千人規模で発生していましたが、衛生環境の改善や、ワクチン接種により近年では多くても10人ほどになっています。

年別患者報告数(国立感染症研究所:日本脳炎より引用)

下図は少し前のデータですが、近年も傾向は大きく変わらず患者報告数は西日本に多く、これは豚の抗体保有調査の結果とほぼ一致しています。
また、図はありませんが発生時期は気温が高くなる4~10月に多くなっています。

地域別患者報告数(厚生労働省研究班:バイオテロ対応ホームページより引用)

ブタの抗体保有状況(国立感染症研究所:2018年度速報第1報より引用)

人への影響(発症と症状)

人に感染しても、感染者の多くは「無症状」です。
発症するのは、感染者のうち100~1000人に1人(0.1~1%)ほどですが、発症した場合「致死率は約25%」と高く、回復してもその半数程度に「重度の運動や意識障害」が残ると言われています。

潜伏期間:6~16日間
症状:発熱、頭痛、意識障害、痙攣、昏睡など
治療法:無し (対症療法のみ)

人のワクチン接種について

上記の「年別患者報告数」のグラフを見ると「ワクチン接種」開始後に患者報告数が激減しており、感染予防対策として「ワクチン接種」に効果がある事がお分かりいただけるかと思います。

通常であれば計4回の接種で、罹患リスクを75~95%減らす事ができるとされています。

①② 第1期初回 生後6~90か月で2回
③  第1期追加 1期初回終了後1年後に1回
④  第2期    9~13歳未満に1回

※以前あった第3期(14~16歳)は有効性が低い事から予防接種施行令改正により2005年(平成17年)7月で廃止

しかし、1976年から行われてきた日本脳炎ワクチンの定期接種ですが、2005年(平成17年)になって接種の「積極的勧奨の差し控え」が通知されます。
これはマウスの脳由来原料を使用した旧ワクチンによる副作用(急性散在性脳脊髄炎=ADEM)の発生が危惧された為です。

2010年に新製法での新型ワクチンによる「積極的勧奨の再開」が行われるまでの約5年間で、接種機会を逸している可能性があります。

以下は接種回数が不足または受けていない可能性がある年代となりますので、母子手帳等で確認してみて下さい。

①1995年(平成7年)4月2日~2009年(平成21年)10月1日生まれ
→接種時期がワクチンの「積極的勧奨差し控え」期間と重なるため、接種を受けていないまたは回数不足の可能性がある
②北海道で2016年(平成28年)度以前生まれ
→北海道では2016年(平成28年)4月1日から定期予防接種が開始されたので、それ以前に北海道で生まれ育った方は接種を受けていない可能性がある

上記に当てはまる方は接種履歴を確認し、不足がある場合は感染予防の為にも接種をお勧めします。
(現在、製造上のトラブルにより日本脳炎ワクチンの供給不足が発生しています。接種回数や年齢など制限が設けられている為、接種を希望する際はお住いの自治体や医療機関へお問い合わせ下さい)

ブタさんへの影響(発症と症状)

ブタさんが感染した場合の多くは無症状ですが、抗体が無い母豚が感染すると流産や死産などの異常産を引き起こします。
また、繁殖用の雄豚の場合は精巣の腫大などを引き起こし、精子数の減少や精子生存率の低下など繫殖機能に影響が現れる事ががあります。
無症状のブタさんでも体内(血中)でウイルスは増殖してしまうので、その血を吸血した「コガタアカイエカ」によって感染が広がるおそれがあります。

ブタさんへのワクチン接種について

症状が出なくてもブタさんの血中でウイルスが増殖してしまうため、感染前にワクチン接種をしウイルスを失活させる(中和)抗体を備えさせておく必要があります。

pignicでは農林水産省補助事業により作成されたワクチンマニュアルを基に、春頃にワクチン接種を実施しています。
また、近年の気候変動により気温が高い期間が長くなることがあるので、状況に応じて秋頃に追加接種を行う準備もしています。
ブタさんをお迎えいただき、発生報告数の多い西日本方面や「コガタアカイエカ」の発生源となる水田や沼地付近にお住いの方はかかりつけの獣医師さんと相談して年に複数回の接種も検討してみてはいかがでしょうか?

まとめ

日本脳炎とは
→水田や沼地に生息する「コガタアカイエカ」をウイルス媒介として、感染動物からブタや人、犬、馬などへ感染する伝染病
→ウイルスは「コガタアカイエカ」によってブタの体内に入り、血中で増殖する
人が感染すると
→発症するのは感染者の1%以下だが、発症すると症状は重篤で致死率も高い
ブタが感染すると
→無症状が多いが、妊娠豚は異常産、雄豚は生殖障害が起こる事がある
人のワクチン接種
→副作用の問題等で年代によっては未接種、回数不足の可能性がある
ブタのワクチン接種
→感染防止対策としてワクチン接種が有効
→通常は春頃に接種するが、地域や気候状況によっては年複数回の接種も検討
4月17日(日)にpignicにて開催されるワクチン接種会に参加希望の方は、こちらよりお申し込みください。

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